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キャンプ序盤 張られた伏線

最初に「異変」が起こったのは、1月20日午後のことだった。

例年なら土台となるフィジカルを徹底的に鍛え、ボールを使わない練習も多いはずの第1次御殿場キャンプ。それなのに開始から実質2日目で、早々に実戦形式のトレーニングを始めたのだ。終了後の取材に対し、反町監督は「ビルドアップ(攻撃の組み立て)で簡単に長いボールに逃げるのではなく、プレッシャーの強い中でもどれだけやれるかを意識させた」と明かした。

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翌日の午前練習も同様だった。ペナルティーエリアを3分割して均等に選手を配置し、両端にはGK1人ずつ。最後尾からボールを前に運んでいくメニューを課した。そこで反町監督が飛ばしていた指示は「深み」「広がり」そして「ボールを受ける角度」など。フィジカル、守備、攻撃の手順でチームを構築していた過去4年間とは一線を画すアプローチで、しかも選手にはまだ今季の戦い方の全貌が明らかにされていない段階だった。「サッカーが変わる前触れだと思う」。7年目を迎える飯田は例年との違いを敏感に察知し、そう振り返っていた。

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予感通り、それは「伏線」だった。

計12日間の第1次御殿場キャンプでは、そのメニュー以外にもボールを使ったトレーニングが目立った。2月1〜12日の第2次清水キャンプでは、その色合いがより鮮明に。例年通りのミドルパワー(インターバル走)や瞬発力を鍛えるサーキットトレーニングは随所に織り込むものの、守備と切り替えを早々に仕上げて攻撃メインの練習にシフト。GKも含めて最終ライン同士でパスを交換しながら中盤に当て、左右サイドを効果的に使いながらダイナミックに攻めていく。ボールを持つ最終ラインの前が空いていたら、迷わずドリブルで持ち運ぶ。練習からはそうした意図が垣間見えた。

身の丈サッカー 新たな局面へ

過去4年間、指揮官が折に触れて強調してきたのは「身の丈に合ったサッカー」。ボール支配にこだわりながら伸び悩んで降格していったチームの名を挙げて「他山の石」としたことも、一度や二度ではない。その言葉に照らし合わせるなら、実現できるだけの陣容が整ったと判断して新たな領域に踏み込んだのだろう。ただ「背伸びをしすぎてもふくらはぎがつってしまう」という独特の言い回しにもにじむように、自身にとっても一定のチャレンジになることは間違いない。

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一見しただけだと、これまでの山雅が洗練し続けてきた「縦に速い」スタイルとは真逆にも感じられる。特にボールを敵陣に運んで以降は中盤の三角形に加えて左右ウイングバック、オーバーラップした最終ラインも含めて頻繁にポジションチェンジしながらさらに前へ。その後14 〜19日の第3次鹿児島キャンプではゴール前の攻略を主眼としたメニューを行い、ワンツーなどでフリーの状況をつくるよう植え付けた。「そこから先は選手のアイディア次第」「3バックだとどうしても攻撃が固定的になりがちだが、それは嫌だから流動的にしたい」と指揮官。ロングボールとカウンターの比率が高かった攻撃に、新たな引き出しを加えようとしてきた。

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「プログレッション」根幹は不変

その変化は、何も山雅が突き詰めてきたスタイルと決別するものではない。走力で上回って球際で負けず、自陣ゴール前では体を張って守り抜く。0.1秒でも早く攻守を切り替え、生じた隙をしたたかに突く。実際16日に鹿児島ユナイテッドFCと行った練習試合では、時間帯などに応じて長短のボールを使い分けながら攻略を狙っていた。やり方を一変させるのではなく、あくまでも新たな武器を備えようとしているだけにすぎない。だからこそ、指揮官は攻撃面の変化を問われても「マイナーチェンジ」「バージョンアップ」などという表現にとどめている。

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そしてその根底に共通している考え方は、いわゆる「ポゼッション(=保持)」ではなく「プログレッション(=前進)」。喜山も2次キャンプ中、それを裏付けるかのように「まずパス1本でチャンスを作れるならそれが一番いい。保持するのではなく前に運んで、相手の陣地でプレーするためにビルドアップをするものだと理解している」と語っていた。ゴールから逆算し、ボールを前へ進める。その思想にブレはない。

編集長 大枝 令 (フリーライター)

1978年、東京都出身。早大卒後の2005年に長野日報社に入社し、08年からスポーツ専属担当。松本山雅FCの取材を09年から継続的に行ってきたほか、並行して県内アマチュアスポーツも幅広くカバーしてきた。15年6月に退職してフリーランスのスポーツライターに。以降は中信地方に拠点を置き、松本山雅FCを中心に取材活動を続けている。

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